血友病患者を襲った薬害エイズ事件とは?血友病の歴史を学び治療と向き合ってみませんか。
- 2019.02.25
- 制度・歴史
近年の血友病治療は急速な医療の発展により、「健常者と変わらない生活ができる」と言われるまでに進歩しています。今後も新しい薬が次々と開発され、完治する日を願えるようにまでなってきた訳ですが、ここに至るまでにはたくさんの犠牲が伴ってきました。
私たちは現在の治療に頼って日々を送っていますが、その中に血友病の歴史を取り入れてみませんか?
今回この記事を書くにあたり、血友病の過去について私なりに調べてみましたがその情報はあまりにも多く深いものでした。その中で簡単にではありますが記載させて頂きます。是非ご覧下さい。
【血友病の最古の記述と、血友病が王室の病気と呼ばれる理由】の記事はこちら
薬害エイズ事件とは?
薬害エイズ事件とは、1980年代、血友病患者に対し『非加熱製剤』(加熱処理してウィルスを不活性化していない血液凝固因子製剤)を使用したことにより多数のHIV感染者・エイズ患者を生み出してしまった事件です。
薬害エイズ事件は世界的な薬害被害となり、日本では血友病患者の約4割にあたる1800人がHIVに感染し、そのうち約600人以上が犠牲者になってしまったと言われています。
薬害エイズ事件は社会的問題になったこともあり、教科書にも載せられていますが皆さんの記憶には残っていましたか?
HIV/エイズとは?
HIVとは・・・エイズを引き起こすウィルスのこと。
エイズとは・・・HIVによって身体の免疫力が破壊され、本来なら自力で治せるはずの病気を発症してしまう病気のこと。
HIVに感染すると高確率でエイズを発症してしまいますが、HIVの潜伏期間は長く自覚症状がない為、知らず知らずのうちに感染を広めてしまいます。
薬害エイズ事件当時は治療法がなく、不治の病として恐れられていた為に、HIV感染を理由に職場への採用が取り消しになったり、医療機関においても診察拒否が起こるなど差別的な対応をされるといった人権侵害が起こってしまいました。
現在は治療薬の開発で、早期治療でHIVを抑制しエイズの発症を抑えることができるようになりましたが、今もなお間違った知識や偏見により人権侵害は解消されていないようです。
皆さんもこの機会にHIV/エイズの正しい知識を持ってみませんか?
HIV/エイズの誤解と正しい知識
○HIVの感染経路は性的接触・血液感染・母子感染の3つに限られます。
日常生活の接触で感染することはありません。
→握手や会話では感染しません。
→お風呂やプールに一緒に入っても感染しません。
→咳やくしゃみでは感染しません。
→便座やタオルなど日用品を共有しても感染しません。
→血を吸った蚊やダニを通して感染することはありません。
○現在は治療薬の開発により、HIVウィルスを抑制しエイズの発症を抑えることが可能となっています。
○近年では性的接触での感染が増えています。誰にとっても身近な病気です。
薬害エイズ事件と血友病患者さま
この薬害エイズ事件が起こったのは皮肉にも「血友病の未来は明るい」と希望が持たれた頃でした。
1980年代、高額だった20歳以上の医療費自己負担額が最高1万円となり、効果の認められた濃縮製剤の販売・自己注射の導入・保険適応が認められました。特に若い血友病患者さまが自己注射の普及を望み親からの独立・社会参加を積極的に目指したそうです。
今では当然の治療法となっている家庭輸注や自己注射。当時はとても画期的でどの患者さまも期待して取り組んでいたに違いありません。
そんな中、薬害エイズ事件により多くの被害者を出し「血友病=エイズ」と誤った認識が広がってしまったのです。
この社会的問題は大人に限らず子どもにも影響し、血友病だと分かると幼稚園への入園を拒否されることもあったそうで、血友病患者さまやそのご家族は、家庭輸注後の製剤廃棄時にも気を使い病気を懸命に隠していたそうです。
「血友病」という言葉を口に出せない状況となり、それまであった患者さま同士の交流もできず患者会自体が活動停止となってしまいました。
またHIVがエイズを発症するまでの潜伏期間は長く、1987年頃までは専門家の間でも発症率は低いとの見解があった為、血友病患者さまはエイズ感染のリスクに怯えながら製剤を使用し治療するか否か、選択を迫られていました。そして事件の被害者となってしまった血友病患者さまは「エイズ宣告」すなわち「死の宣告」を受けることになってしまいました。
現在の治療が確立されるまで
薬害エイズの被害となった血友病患者さまとそのご家族・医師たちは国会で意見陳述を行い、1996年には薬害HIV訴訟、和解。同年にはHIVの治療法が確立され「奇跡の年」とされました。
また薬害エイズ事件をきっかけに血液製剤の感染症対策が厳しくされました。
1993年には遺伝子組換製剤が発売され、理論上、ヒト由来の感染症から解放されることになりました。しかし過去の経験から、現在の治療の際にも「感染症のリスクはゼロではない」と説明を受けます。
現在主流になっている半減期延長型製剤が販売されたのは2014年。小児から行える定期補充療法導入で、積極的にスポーツに取り組めるようになったのも近年のことなのです。
また、我々は小児慢性特定疾患医療制度を受け実質的な医療費の負担なく治療を受けられていますが、その背景にも被害に遭われた患者さまやそのご家族さまの強い訴えがあります。
現在の血友病における全てのきっかけには、悲しくもこの薬害エイズ事件が背景にあると感じますね。
まとめ
私たち患者は医師を信じ、製剤の効果を信じ、頼って治療していくしかありません。そんな患者を襲った薬害エイズ事件はあまりにも悲しい出来事です。
しかし、血液製剤の充実した現在でもインヒビター・関節障害など血友病治療において向き合って行くことは尽きません。
以前患者会に参加した時に、高齢の方で関節障害を起こし毎日輸注している方が仰っていました。
「寿命が11歳だと言われていた血友病が現在では80歳まで元気に生活できるようになっていると言われるが、私は元気ではない。体はボロボロで毎日の輸注は辛いものでしかない。」
「しかし、若いあなた達はいい薬を使い不自由なく過ごすことができる。頑張りなさい。」
私は涙が溢れてきました。
「現在の血友病は健常者と変わらず過ごせる」とどこに行っても言われますが、「結局治らない病気なのに」と腑に落ちない気持ちでいました。もちろん治療に希望を持って取り組める言葉ではありますが、辛い経験をされてきた身体と正直なこの言葉の方が血友病治療に正面から向き合えた気がしました。
現在の血友病治療では、定期補充療法の導入より「出血ゼロ」を目指すことが大きなテーマとされています。しかし息子の場合、適正とされる定期補充療法がまだ確立されておらず自然出血でさえ恐れる日があります。
次々開発させていく製剤のおかげでどんな状況においても対応できるようになってきているようですが、将来関節障害を起こしてしまわないよう生活を制限せざるを得ない状況があることも事実です。
この薬害エイズ事件や現在の治療法が確立されるまでの時代に比べると、本当に恵まれた環境にあると思います。しかしそれに甘えず過去の教訓を生かし、今度こそ「血友病の未来は明るい」とその証明となれるように正しい治療法を持って息子を守り、血友病と向き合っていきたいです。
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