自然(経膣)分娩と帝王切開どっちが安全なの?血友病保因者である私のお産方法の選択。

自然(経膣)分娩と帝王切開どっちが安全なの?血友病保因者である私のお産方法の選択。

血友病を患う赤ちゃんにおいて最も出血リスクが高いとされる出産時。

後遺症にも繋がる頭蓋内出血を防ぐため、「自然分娩と帝王切開のどちらの出産方法を選択するのか?」。血友病保因者で現在妊娠8ヶ月(男の子確定)の私も、出産方法を決断する日が近づいてきました。

 

今回のブログでは、血友病保因者である私が出産方法を決定するために産婦人科・小児科の主治医から伺ったお話を記録しています。

『血友病を患う赤ちゃんに対して避けたい分娩方法』・『自然分娩と帝王切開のメリット・デメリット』・『血友病保因者の出産』などについてお話ししていきますが、今回の決断は私たち家族にとって非常に難しいもので、出産を無事終えるまで落ち着けないというのが正直なところです。

しかし、様々な情報を得ることで心に余裕ができたのは事実。この記事を読んで下さる方に少しでも参考にして頂き、出産に対する不安の解消につなげて頂ければ幸いです。

 

出産に伴い、医療費助成制度への申請を行いました。詳しくは血友病保因者の私が出産にあたり申請した助成制度の記事をご覧下さい。





はじめに

出産は誰にとっても命がけで、出産方法の選択も様々です。

経膣分娩・帝王切開・無痛分娩など、どの方法を選択してもそれは赤ちゃんと母体の事を一番に考えたそれぞれの選択であり、正解も不正解もありません。

 

今回の記事では、血友病保因者である私が第二子の出産に向け、かかりつけ病院に伺った話であり、勧められる出産方法も病院によって異なります。

血友病に関わる出産の情報や考え方も海外と日本では少し異なったり、何が正しいという結論は出ていません。

今回の記事はあくまで、私が出産する病院から得た情報やアドバイスであることをご理解頂きながらご覧下さい。

 

 

どうして病院によって出産方法が異なるの?

 

血友病保因者が出産方法を決めていく中で一番大切なことは「病院の設備や力量」

今回、私が出産する病院と奈良医大の血友病専門医に保因者の出産についてお話を伺ってきましたが、出産する病院では「基本、自然分娩だが患者と相談の上、帝王切開の選択も」という方針で、奈良医大では「出産前にトラブルがなければ自然分娩を進めている」とい方針でした。

 

「基本、自然分娩」という方針は同じなのですが、お話の聞こえる感覚が全く異なり、奈良医大は「自然分娩」と断言された感じで、出産する病院では「話し合いの中で決めましょう」といった感じ。

同じ方針なのにどうして感じ方が異なったのか?

 

その答えの1番の理由は「経験量」だと感じました。

出産する病院で血友病保因者の出産は行われていますが、血友病専門病院で有名な奈良医大とは経験量に差があります。それに伴い、設備・緊急時の対応に差が出るのも当然です。

 

奈良医大では血友病保因者出産の経験が豊富で設備も整っている。自然分娩・帝王切開のあらゆるリスクを考えた上で「自然分娩の方針」なのですが、同じく、血友病専門医院で設備の整っている東京の病院では「帝王切開を進めている」とのこと。

「経験も豊富で設備も整っている」という同じ条件なのにどうして出産方法が異なるのか?

 

 

そこには経膣分娩と帝王切開へのリスクへの理解が病院で異なるという点が理由にあり、「血友病保因者の出産は何が正しいのか結論が出ていない」という、実際に出産に挑む私たちにとって非常に厄介な問題があるのです。

 

病院によって方針が異なったり何が正しいか分かっていない中で、私たち血友病保因者が赤ちゃんを守るためにできることは、「出産する病院の知識量や設備・対応を理解し、病院の方針を元に出産方法を決めていくこと」なのかもしれません。

出産方法の選択は非常に難しいですが、次に記載する経膣分娩と帝王切開のメリット・デメリットを参考に自分自身の気持ちと向き合ってみて下さい。

 

 

自然(経膣)分娩のメリット・デメリット

 

自然分娩とは、特別な処置を行わずに陣痛を待ち、産道を通して赤ちゃんを出産する方法。痛みを和らげる麻酔や吸引処置などの医療行為を行わず、自然の流れで出産していきます。

経膣分娩は自然分娩と同じく産道を通して赤ちゃんを出産する方法ですが、赤ちゃんや母体に何らかのリスクが生じた際に医療処置を行います。

 

経膣分娩において行われる医療行為は様々で、その全てが母子を守り出産をスムーズに行うためのものなのですが、その医療行為の中には血友病の赤ちゃんにとって避けたい医療行為があります。

 

 

 

血友病の赤ちゃんにとって危険な出産医療行為

 

下記は血友病の赤ちゃんにとって頭蓋内出血を引き起こす原因となります。

特に、吸引分娩・鉗子かんし分娩は血友病を抱える赤ちゃんには禁止行為とされています。

 

  • 吸引分娩・・・産道の途中で止まってしまい酸素不足になり兼ねない赤ちゃんの頭に、金属・またはシリコン製のカップを吸い付かせ引き出す方法。
  • 鉗子かんし分娩・・・吸引分娩では上手く引き出せない場合などに、金属製の2枚のヘラを合わせた器具で赤ちゃんの頭を包み込み引き出す方法。
  • 誘発分娩・・・自然に陣痛が来る前に子宮収縮薬を用いて陣痛を開始させる方法。子宮が収縮される上に、分娩時間が長くなる可能性がある。吸引・鉗子かんし分娩が必要になることも多いため、自然分娩が望ましいとされている。

 

 

自然分娩のメリット

  • 保因者への凝固因子製剤輸注を避けられる可能性が高い
  • 多くの子供を希望する場合は経膣分娩が望ましい

 

女性は妊娠すると出産に向け凝固因子活性が上昇していきます。それは血友病A保因者も同様で、経膣分娩時に必要な凝固因子活性値まで上昇することが分かっています。その為、保因者であっても製剤を使用することなく出産を終える可能性が高いそうです。

ただし、血友病B保因者においては凝固因子活性の有意な上昇はなく、血友病A保因者の中でも通常の凝固因子活性が低い人は分娩時に大量出血してしまうこともあるので注意が必要です。

 

 

私が出産する病院では、妊娠初期・中期・後期(35週頃)に凝固因子活性値を測定します。

通常の凝固因子活性45〜50%の私の場合、妊娠初期:64%・中期:72%で問題ないとされています。

実際、第一子出産時に出血過多ではあったものの許容範囲内であり、出産後の止血管理にも問題はありませんでした。

 

 

また、帝王切開を行なった場合、手術の状態にもよりますが次回妊娠時に子宮破裂等のリスクが高まることから、一般的には3回までの出産と言われています。その為、多くの子供を希望する場合は経膣分娩が望ましいとされています。

 

 

自然分娩のデメリット

  • 吸引分娩・鉗子かんし分娩を完全に避けることは不可能

 

血友病を抱える赤ちゃんにとって危険な出産医療行為である吸引分娩と鉗子かんし分娩。出産はいつどんなトラブルが起こるか予測できません。赤ちゃんや母体にリスクが生じた場合は緊急帝王切開などあらゆる方法を考えていかなければなりません。




帝王切開のメリット・デメリット

 

帝王切開とは、赤ちゃんや母体に何らかの問題があり経膣分娩が難しいと判断された場合に手術にて赤ちゃんを出産する方法。今では5人に1人が帝王切開で出産していると言われています。

予定帝王切開の場合38週頃に手術が行われ、入院期間は自然分娩で産後5日間、帝王切開で産後7日間を目安とされています。

 

 

 

帝王切開のメリット

  • 自然分娩に比べて頭蓋内出血の可能性が低い

 

帝王切開時における1番のメリットは、赤ちゃんの頭蓋内出血へのリスクが低減されることです。実際、データ(海外のもの)も出ており、アメリカでは帝王切開の症例が増えているそうです。

ただし、これも100%ではないとの事。吸引分娩・鉗子かんし分娩が行われない事で頭蓋内出血のリスクは当然低減されますが、原因不明で出血してしまうこともあります。

また、稀ではありますが帝王切開時に赤ちゃんを傷つけてしまったり、赤ちゃんを取り出す際に腕や足などが脱臼してしまうこともあるそうです。

 

 

帝王切開のデメリット

  • 保因者への凝固因子製剤が必要になる
  • 凝固因子製剤の使用時、インヒビターが発生すると「後天性血友病*」を発症する恐れがある
  • 帝王切開は母体保因者の死亡率が高くなるという報告もある(特に血友病B)

 

血友病保因者の自然分娩において必要な凝固因子活性が50%以上とされていますが、帝王切開の場合、手術中は80〜120%に保ち、術後5日間はトラフ値(最低値)を50%以上維持しなければならないとされています。

その為、手術中はもちろんですが、産後徐々に元の数値に戻っていく凝固因子活性に合わせ術後も製剤の投与が必要になってきます。

また、万が一製剤使用時にインヒビターが発生してしまった場合、元々持っている第八因子の機能が阻止される、いわゆる後天性血友病*へ繋がってしまいます。

 

後天性血友病とは・・・第八因子の遺伝子は正常ですが、患者の免疫系が自身の第八因子に対する抗体(インヒビター)を量産しその働きを阻止してしまう「自己免疫疾患」のひとつ。男性・女性のいずれでも発症し遺伝はしません。

 

経膣分娩においてもそうですが、帝王切開は出血量が多いので適切な止血管理が必須となります。

 

 

私が出産する病院の出産・産後管理方法

 

自分にあった出産方法を決定するのは、心を安定させ安全に出産を進めるために大切なことですが、私が今回出産するにあたり一番気になったのは「病院の出産・産後の管理方法」でした。

出産時の対応はもちろんですが、「出産後の赤ちゃんをどのように診てくれるのか?」というのはかなり重要な点だと感じました。

これからご紹介するのは私が出産する病院の管理法ではありますが、ご参考下さい。

 

 

 

出産時の管理方法

【経膣分娩の場合】

  • 自然分娩を基本とし、誘発分娩は極力避ける
  • 吸引・鉗子かんし分娩は禁止
  • 分娩が遷延せんえんした場合は速やかに帝王切開に切り替える

【帝王切開の場合】

  • 手術時および術後5日間は凝固因子活性を80〜120%に保つ

*いずれの分娩方法も、小児科医師が分娩に立ち会う

 

通院先の小児科医師は、血友病専門医である奈良医大出身の方が多く、血友病の知識をお持ちです。そのことから出産に小児科の医師も立ち会うそうですが、それが息子の主治医なら・・・これは何とも気まずい^^;とも言ってられませんよね。

とても頼れる先生ですし、一人でも多く専門知識を持った方が出産に携わって下さるのならそれは安心材料でしかありません。

 

 

 

産後の管理方法

【保因者】

  • 産後の悪露おろが多い場合は凝固因子製剤やトラネキサム酸の使用を考慮する

【赤ちゃん】

  • 頭部エコー : 日齢0日・1日・4日に頭部超音波検査を行います。頭蓋内出血が疑われる場合は頭部CTを撮影します
  • 採血 : 臍帯血さいたいけつ(*1)と産後5日でAPTTおよび凝固因子活性を測定します。採血の際、ヒールカット(*2)は禁止。末梢静脈からの確実な採血と圧迫止血を行う

 

(*1) へその緒を流れる血液のこと。この血液にお母さんの血が混じっていた場合、採血は無効となります。(*2) 採血の難しい新生児に、比較的神経の少ないかかとを針で斜めに削るようにして出血させ採血する方法。

 

頭部超音波検査は、新生児の頭の柔らかい部分「大泉門」から診ていきます。しかし、超音波検査では頭部の深いところまでは見れないそうです。超音波検査で異常がないとされてもしばらくの間は赤ちゃんの様子をしっかり観察する必要がありそうです。

その他、上記にはありませんが常に奈良医大と連携している事、使用する製剤の種類なども先生から伺っています。




血友病保因者である私の出産方法の選択

 

さて、ここまでお話ししてきた事を踏まえ、血友病保因者である私が選択した第二子出産方法は『自然分娩』です

 

自然分娩・帝王切開のリスクや病院の管理体制を知るまでは、「産まれてくる赤ちゃんの頭蓋内出血へのリスクを少しでも下げるため帝王切開しかない」と考えてました。

しかし、様々なリスクを知ると「私自身がお腹を切り、製剤を使用したり産後の傷が辛くても赤ちゃんが少しでも安全に産まれてくるのなら」という考えはあまりにも簡単で、出産は如何なる状況でも母子ともに安全を確保していきながら進めていくことが大切だと感じました。

 

 

私が様々な出産リスクを知っていく中で一番衝撃だったのは、保因者の製剤使用時にインヒビターが発生してしまうと「後天性血友病」を発症してしまうという点でした。

後天性血友病を患いながらも頑張っておられる方はもちろんいらっしゃいますが、私は後天性血友病発症のリスクを回避したいと感じ、自然分娩に心が動いたのが正直なところです。

 

また、今回の出産が2度目であることも自然分娩を行う安心材料の一つであり、産婦人科の主治医からも「今回の出産が初めてなら帝王切開の選択も十分にあるが2度目なら自然分娩で大丈夫だろう」と言われています。

 

もちろん、出産前に逆子等の異常が見られたり、自然分娩で進めても緊急帝王切開になる可能性は十分にあります。その時々に合わせて先生方に助けてもらいながら、母子ともに安全に出産を終えること。これが全てだと考えています。

 

とりあえずは自然分娩という選択で出産に向け準備していきますが、適切な処置が取れるよう以下の点に気をつけていくよう指示されています。

 

  • 妊娠後期ではお腹の張りに気をつけて生活すること
  • 陣痛等の体の変化を感じ不安に思ったら必ず病院へ相談すること
  • 破水の際はお産がどんどん進んでいくので急いで連絡し病院へ向かうこと

 

一度陣痛を経験しているので、「これくらいの痛みなら大丈夫かな?」なんて考えてしまいそうですが、一般的に言われる陣痛の間隔を改めて学び、不安に思ったらすぐ相談!これも赤ちゃんを守るために大切な事ですね。

 

 

コロナ禍の出産に向けて

 

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

今回のブログはかなり長文になってしまいましたが、何か一つでも参考にして頂ければ幸いです。

 

これから挑む出産はコロナ禍にあり、出産する病院でも立会い禁止・赤ちゃんとの面会は代表1名がガラス越しに一度だけ・私と家族の面会は禁止・荷物等も看護師経由とかなり寂しい状況です。

そこで今から心配なのは長男のこと。長男が産まれてからこんなに会えないのは初めてなのでとても寂しいですが、長男ももう4歳!パパと二人で頑張って欲しいと応援しています。

 

長男の輸注日程・通院日程も確認したし、まだまだ手付かずの赤ちゃんを迎える準備を進めながら、残りの妊娠生活・家族3人の生活を楽しんでいきたいと思います。