血友病の保因者だと知らずに挑んだ出産の話

血友病の保因者だと知らずに挑んだ出産の話

私の息子は「血友病」という血が止まりにくい疾患を抱えています。

血友病は遺伝子疾患であるため、息子が血友病と診断された時点で血友病の原因となる遺伝子を家族の誰かも抱えている可能性が考えられます。

 

男の子が血友病遺伝子を受け継いだ場合、その遺伝経路は「母親」だと推測します。

ただし、血友病は遺伝だけでなく「孤発例」いわゆる突然変異の場合も少なからず考えられます。遺伝経路が母親かどうかは「遺伝子検査」を行わなければ判断することができません。

 

そこで私に「遺伝子検査を受けるか否か」の選択肢が生まれました。私の場合、「家族を増やす」という点から遺伝子検査を受けましたが、遺伝子検査は精神的なケアがとても重要です。気の強い私もかなり不安定になってしまいましたので、家族の支えや相談、できればその後のケアも可能な状況で慎重に判断することをお勧めします。

【保因者診断について】の記事はこちら

 

そして私の遺伝子検査の結果は、息子と同じ遺伝子を持つ「保因者」と診断されました。凝固因子活性値は48%程度です。

 

保因者の症状には個人差がありますが、私の場合これまでの人生で不自由を感じたことがありませんでした。しかし、保因者の方の経験談を見ていると「これって保因者特有の症状なのかも?」と自分と似た境遇がいくつか見られました。

今回の記事では、保因者が最もリスクを抱える「出産時」について、保因者であることを知らず挑んだ私の妊娠・出産状況をお伝えしていきます。





妊娠期の状況

 

妊娠中は葉酸をしっかり摂取し、大好きなコーヒーもやめていましたが、途中から我慢できずカフェインレスコーヒーを購入。至って普通に安全に妊娠生活を楽しんでいました。

息子の成長も問題なく、活発な胎動と検診時のエコー検査に癒されていました。

しかし、妊娠時にトラブルもありました。

 

 

妊娠中のトラブル(意識消失)

 

妊娠4ヶ月頃。外出時に気分が悪くなり、トイレに駆け込みましたがその途中で意識がなくなり顔面から転倒。前歯を折るというトラブルがありました。

すぐに意識は回復しましたが、動くことが難しくトイレの中でしゃがみ込んで回復を待っていました。当時主人も一緒にいましたが、「トイレに行く」とだけ伝え離れたので私の異変に気付く訳もなく、トイレの中で事後報告しました。

 

体調が回復した頃に、主人と合流。すぐかかりつけの産院へ電話し相談しました。

出血もなく、まだお腹もそれほど出ていないということで様子を見ることに。その後の検診で貧血等の異常は見られませんでしたが、念のため脳外科で検査を受けました。こちらの結果も問題ありませんでした。

 

 

私は、中学時代から意識を失って倒れたことが何度もあり、成人後も電車内でそのようなことが何度かありました。その経験から「倒れることへの恐怖」を強く抱えていたので、今回の意識消失も精神的なものではないかと診断されています。実際、今でも電車では座っていないと不安で仕方ありません。息子と電車に乗るときは「自分がしっかりしなくては」と強く言い聞かせています。

 

なので、この出来事は保因者とは無関係かと思いますが一応妊娠中の出来事として書いておきます。

 

 

妊娠中のトラブル(出血)

 

妊娠中に出血することは「あり得ること」で、妊娠中の出血時の対応は様々な参考書に記載されています。

 

私も妊娠中の出血については学んでいましたが、いざ出血すると大きな不安と焦りが襲ってきます。こちらもすぐに産院へ相談。その足で産院に向かいました。もうどうにも感情がコントロールできない状態で、先生がエコー検査しているときは心臓がバクバク、涙がボロボロ流れていました。

「出血の原因は分かりませんが、問題ありません。」どうして先生ってあんなに冷静なんでしょう^^;

 

 

出血の状態は、「違和感を感じトイレに行ってみると出血していた。痛みはなかったが鮮血で結構な量だった」と記憶しています。

こちらも保因者でも保因者でなくても起こり得ることです。原因不明なので「何もなくて良かった」としか言いようがありませんね^^;




保因者と知らず挑んだ初めての出産

 

保因者として最もリスクのある「出産」。保因者であることが出産前に分かっていれば「出産の方法」「保因者の出血時の対応(止血製剤の準備等)」「吸引分娩の禁止」「生まれてくる赤ちゃんへの迅速な対応・検査」など、事前準備を行なった上で出産に挑みます。

 

保因者の出産にあらゆる処置があるにも関わらず、血友病である息子の出産が誰も何も知らない状態で行われたことを本当に恐ろしく感じてしまいました。

 

 

下記は息子の分娩時状況です。

【 息子の出産の状態 】

  • 妊娠期間 : 40週03日
  • 分娩方法 : 経膣分娩(普通分娩)
  • 分娩経過 : 頭位
  • 分娩所要時間 : 13時間04分
  • 出血量 : 多量(556ml)→  輸血なし(血液製剤含む)

※吸引分娩・無痛分娩・陣痛促進剤等は使用していません。

 

 

出血量は多量にチェックがされていました。そこで、分娩時の出血量について調べてみました。

 

日本産科婦人科学会用語集では「正常分娩の出血量は500mL 未満とされており、それを超える量の出血を分娩時異常出血という」と定義されています。

ただし、分娩時出血量を検討した報告などでは、単胎・経腟分娩:800mL、単胎・帝王切開:1,500mL、多胎・経腟分娩:1,600mL、多胎・帝王切開:2,300mL までが全体の90%を占めると報告されており、500mL以上の出血は決して珍しくないようです。

 

 

また、分娩時出血過多の原因も様々なようです。

 

【 最も多い原因 】

  • 分娩後に収縮し始めず、緩んで伸びたままの子宮(子宮弛緩と呼ばれる状態)

 

【 以下のような状況では子宮の収縮がさまたげられます 】

  • 子宮羊水量の過多・多胎妊娠・非常に大きい胎児などにより、子宮が過度に拡張していた場合
  • 分娩が長引いた場合や異常分娩であった場合、あるいは急速に進んだ場合
  • 出産経験が5回以上の場合
  • 陣痛および分娩時に筋弛緩作用のある麻酔薬を使用した場合
  • 胎児を包んでいる膜に感染が生じた場合( 羊膜感染 )

 

【 以下が起こった場合にも出血過多が生じやすくなります 】

  • 分娩中に腟や子宮頸部が裂けたり、会陰切開により切開されたりした場合
  • 妊婦に血液凝固を妨げる出血性疾患がある場合
  • 羊膜感染から子宮の感染(子宮内膜炎)が生じた場合
  • 分娩後も胎盤の一部が子宮に残っている場合
  • まれに、子宮破裂または子宮内反(子宮が裏返しになる)が起こった場合

 

 

分娩時出血過多の原因は様々で、その中の一つに「血液凝固をさまたげる出血性疾患」という項目があります。

 

私の出血量は定義としては過多ですが、問題ないとされる範囲です。分娩後に「出血量が少し多かったですが問題ありません」と輸血等は行いませんでした。出血過多だからと、分娩時や分娩後に大きな問題がなければそれ以上の疑いや検査を行うことはありませんでしたが、分娩後8時間、分娩室で待機することとなりました。(これが一般的なのか、出血過多が理由かは分かりません。)

 

「気分が悪い訳でもないし、この分娩室を私が占領していていいの?」なんてソワソワしていたのを覚えています。

 

「分娩後初めてトイレに行くときは必ず連絡して下さいね」と説明を受けていたので連絡すると、車椅子での移動をお願いされました。「車椅子を乗り降りする方がしんどいけどなぁ」なんて思い、トイレを済ませベッドに戻る際は自分で歩いて戻りました^^;

「大丈夫そうですね」と私の状態を確認してもらい、ようやく自分の部屋へ案内してもらいました。

 

産後毎日の検査も、異常出血等の問題はなく順調に回復していきました。




保因者の出産

 

私が保因者診断を受けた大きな理由は、「新しい家族を持つかどうか」を判断するためでした。

「私が保因者だったら次の妊娠は諦めよう」という考えも持ちましたが、現在では「息子のためにも可能であれば家族を増やしたい」と考えています。

そうなれば保因者としての出産に挑みます。血友病に詳しい産院・病院で検査やお産の準備を進めて行くことになるでしょう。

 

 

血友病は認知度が低く専門医でなければ適切な診断や治療が行われないのが現状ですが、保因者はさらに認知度が低く、保因者にスポットが当てられたのも最近のことで、それもごく一部です。

 

出産はどの方にも様々なリスクが伴います。保因者である方はより一層、母子共に大きなリスクが考えられます。妊娠中の通院にも大きな不安を抱えてしまうので、そうゆう点からも多くの産院で保因者について認知し、専門院と迅速に連携できる環境が広がり、みなさんが安心して出産に挑める環境が当たり前になっていけばいいなと思います。