定期補充療法に関する様々なデータ。開始時期と関節症・凝固因子活性と出血頻度の関係とは?
- 2019.07.22
- 基本情報
現在の血友病治療で重要視される関節内出血。そして関節内出血を繰り返して起こる関節症は絶対に避けたい症状の一つです。
実は、定期補充療法の開始時期によって関節症の発症程度が変化するって皆さんご存知でしたか?
他にも、製剤活性値と出血頻度の関係性など、先日行われた輸注手技研修での講義内容を皆さんと共有していきます。
定期補充療法の時期
定期補充療法の開始時期は、年齢や体質・環境によって異なります。息子は血友病と診断された1歳半頃から定期補充療法を開始しました。
「関節内出血を起こしたら定期補充療法を開始する」なんて聞いたことありませんか?
私の推測ですが、0歳児の血管確保はかなり難しく、週2〜3回行われる注射で血管が潰れてしまうリスクが高いこと、歩行が始まるまでは関節への衝撃が少ないことなどを考慮しているのかな?と感じています。実際、1歳半で定期補充療法を開始した息子でも血管が潰れてしまうリスクを背負って治療していました。
しかし、定期補充療法の開始時期と関節症にはこんなデータがあるようです。
定期補充療法の開始時期が早い方が関節症が少ない?
『定期補充療法の開始時期が早い方が関節症が少ない』もっと言えば、『関節内出血を起こしてしまう前に定期補充療法を開始した方が関節症が少ない』というデータがあるそうなんです。
確かに、関節内出血は繰り返されると出血しやすい状態(標的関節)となってしまうので、環境が整っているなら定期補充療法を早期に開始して少しでも出血を抑えていきたいですね。2019年現在では皮下注製剤が使用可能となっているので、血管確保が難しい乳幼児期での定期補充療法も導入しやすい環境となっています。
また、定期補充療法の早期開始にはもう一つ利点があり、『定期補充療法が早いとインヒビター発生が低い』というデータもあるようです。
※ヘムライブラ(皮下注製剤)は第8因子に対するインヒビターは発生しません。
凝固因子活性値と出血頻度の関係性
定期補充療法を開始するにあたり大事なのが凝固因子活性値で、特にピーク値(最高値)とトラフ値(最低値)を重要視していきます。半減期延長型製剤を使用する私たちにとってこの値はとても重要で、行動に制限をかけられない息子を見守っていく上で常に頭の中に入っているデータでもあります。
※ヘムライブラ(皮下注製剤)はピーク値がとれません。凝固因子活性値やインヒビターの測定も困難なようです。
では、一体どの程度の値を保てばQOL(生活の質)を向上させることができるのでしょうか?
活性◯%保てば出血しにくい体になるの?
「出血しにくい体にすること」それが血友病患者さまの課題かと思いますが、一体どのくらいの活性値を保てば良いのでしょうか?それは患者さまの年齢やライフスタイルによって大きく異なります。
【それぞれのライフスタイルで必要とされるトラフ値(最低値)】
・デスクワークが主な会社員・・・1%
・アスリート・・・12%
・乳幼児・・・3〜5%
数年前まではトラフ値1%を基準としていましたが、現在の血友病治療では上記のように患者さまのライフスタイルでトラフ値を設定し、それに合わせた輸注回数や製剤の種類を選択するテーラーメイド治療が主流となっています。定期補充療法を行うにあたって重視するピーク値(最高値)においては、ピーク値が高いと出血が少ない傾向にあり、さらに凝固因子活性30%以上の時間が長いと出血が少ないというデータもあるようです。
出血ゼロを目指すための治療法や薬が開発され、患者さま一人ひとりが安心して治療を受けられる環境が作られてきていますが、現在の血友病治療では限界もあるようで・・・。
現在の血友病治療の限界
定期補充療法における様々なデータをご紹介してきましたが、現在の定期補充療法には限界があるというデータも出ているようです。
定期補充療法を行っていても関節内出血(特に足関節)は起きてしまうし、関節内出血を繰り返してしまった関節は明らかな出血が無くても関節症へと進んでしまうことがあるようです。
では、どうすれば良いのか。
標準型製剤?半減期延長型製剤?ヘムライブラ?様々な選択が可能ですが、結論はまだ出ていないようです。
息子の主治医はこう言います。
『選択肢がありすぎて医者の私達もどの選択が正しいのか迷います』
と。私たち患者にとっては嬉しい環境ですが、医者にとっては非常に難しい治療の選択となっているようで・・・お気持ちお察しします^^;
健康な体を維持するために私たちに出来ることは?
治療の選択は主治医と共に考えていきますが、やはり自分の体は自分で守っていかなくてはなりません。適度な運動を行い出血しにくい体づくりに励んだり(*1)、出血や関節に違和感を感じた際は『RICE』を徹底したり(*2)。
(*1)【出血しにくい体づくり、スポーツをする意味について】の記事はこちら
(*2)【血友病における応急処置『RICE』について】の記事はこちら
関節の状態を定期的に検査することも重要となります。
近日中に息子も行いますが、レントゲンやMRIで関節の状態を定期的に診断していきます。関節の状態により治療法を変更するなどして、関節の変化に早期に対応することができます。ちなみに、息子のような幼児の場合、レントゲンではほぼ診断がつかないためMIRでの検査となります。MIRは動いてはいけないので麻酔を使用しての半日入院というかたちになります。この様子はまた記事でお知らせしますね^^
息子は間もなく、週2回の通院を終了し家庭輸注へと移行します。今まで「不安なことがあれば次の輸注日に相談しよう」とすぐに相談できる環境が当たり前にありましたが、今後は出血させないための輸注や出血時の対応を今まで以上に考えていかなければと身を引き締めています。が!「不安があればすぐに相談」。まだまだ未熟な私たちにはこれが一番大切かもしれません^^;
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